私の家は、代々続いた商店で、鮮魚販売をしています。家の大きな構造としては、 120 坪の敷地の中に、店のスペース、住居スペース、離れ、いろいろな食器を大量にしまっておく蔵のスペース、庭があります。
祖父が存命中のときは、宴会等も多く、家の 2 階の部屋を宴会用に提供していました。お店も鮮魚販売で、刺身などの注文が多く、配達の手が足りないので、知り合いの人が配達だけ手伝ったりするような、人の出入りのある、にぎやかな家でした
長男の私が東京へ出て大学に進学し、会社に勤め、結婚して――――。家を出てから 16 年年。気が付いたら両親は 60 歳になっていました。
初めての子供ができたとき、帰省しましたが、自分が家庭を持った立場で、家を見渡してみると、住みにくい構造であることに気が付きました。
今はもう、町自体が過疎化して、昼間でも、道路を歩いて誰かに会うということはまれです。あのころの繁盛した店の様子はうそのようで、父親は市場に出稼ぎにいき、母一人で切り盛りしている店は、整理が追いつかず、仕入れた商品や空箱であふれかえった状態。店の脇に、住居スペースにつながる通路がありますが、そこもいろいろなものであふれかえり、人一人が通るのにやっとです。家の中も、部屋数は多いのに、まるで迷路のように入り組んだ構造で、段差も多く、一度座ってしまうと、洗面所に歯を磨きにいくのも、一大決心が必要でした。台所は土間で、仕出し用の大きな釜、作業用の台が備え付けられた昔ながらの構造。ちょっと水を汲みに行くのにも、茶の間のコタツから高低差のある玄関に降りて更に段差のある台所の土間に下りていかねばなりません。産後間もない妻にとっては何をするにも重労働でした。
両親たちの寝室は離れにあったのですが、母親、妻、店主の三役こなし、母は 1 日働いてぐったり。店じまいもそこそこに、茶の間にバタンキュー。狭い通路と段差を越えて、離れの階段を上り、ベッドにたどり着く余力はありません。茶の間を寝室代わりにするようになって、 10 年以上はたつでしょう。体にも悪いし、疲れも取れないよと昔からいっていますが、改善するのはなかなか難しい状況です。
9 人いた家族も、祖父が他界し、兄弟 5 人とも結婚して家の外に出て、今住んでいるのは、祖母と両親の 3 人。スペースはあるのに、それが有効に使われていない状況ですし、移動だけでも重労働です。
あるとき、母と一緒にテレビを見ていると、リフォームの番組が放映されていました。時計店を経営していた年老いた老夫婦が登場し、リフォーム後、家がきれいになっただけでなく、半世紀もの間経営した時計店の看板が、普通だったら捨てられるところを、玄関に装飾品として美しく生かされていた様子に涙するという、そんな感動的な内容でした。単なる生活のためというわけではなく、自分の仕事に誇りを持ち、全生涯をかけたそのおじいちゃんの誠実さにとても感動しましたし、施主の思いを汲み取って、リフォームを行う建築士の愛情にも心動かされました。
母も、その番組を見て、とてもうらやましがっていました。前々から家の使い勝手が悪いと思って、存命中、祖父に相談したら、「何いってるんだ」と怒られてしまったと言うことをもらしていました。
あんなにたくさんいた兄弟が、育ててくれた両親の面倒も見ないで、自分勝手にそれぞれに生活している。両親としてはどれほど寂しいことでしょう。せめてもの恩返しに、両親が住みやすいように、家をリフォームしてあげてはどうだろうか。そう思い、兄弟に相談しました。
みんな自分の生活に精一杯で、経済的に余裕のある人はだれもいませんでしたが、 5 人いる兄弟で出し合えば、それぞれの負担は少なくて済むはず。なんとかそれぞれ資金を調達して、めどがつきました。大人になってはじめて、兄弟がたくさんいることのありがたみを感じました。
具体的にどのリフォーム会社にするかが、次なる問題でした。ただ外観がきれいというだけでなく、TV番組のように、こちらの生活導線や状況を深く汲み取って、使いやすい家にしてほしい。
それをかなえるために、インターネットなどを使って、じっくり調査しました。その結果、運よく、大手のところですが、県内に営業所があり、センスもよく、使いがってのよさそうな設計をしてくれるところに出会うことができました。
まずは電話で相談して、事情を説明し、そのあと、実際に家に来てもらい、見積もりをしてもらいました。こちらの意向を汲み取ってくれ、間取り等、納得いく感じでした。私としては、大手=利益主義=高い、使い勝手が良くない=お金の無駄というイメージでしたが、そうでもないんだなと考えを改めました。
施工会社が決まりほっとしましたが、部分的なリフォームではなく、全面的なものなので、住みながらの工事は難しいと言われ、一時的に別の住居を見つけなければなりませんでした。半世紀以上、商売しながら代々住んできた家なので、物があふれ、捨てるのも一苦労。片付けや引越しだけで 1 ヶ月以上かかりました。
それから 5 ヵ月後、やっと工事が終わりました。
お祝いも兼ねて、久しぶりに兄弟みんなが集まって、生まれ変わった家の中を歩いてみました。
今まであった段差を無くし、茶の間のとなりに両親の寝室を作ってもらい、離れは通路でつなぎ、外にでなくてもよい作りにするなど、広い家の中を楽に移動できるようになり、あまりの変わり様にびっくりしました。
母も、「こんなに素敵な家にしてくれてありがとう」と喜んでいました。
今まで家の敷地は広くても、使い勝手も悪く、荷物が占領していたため、兄弟達も遊びに来ても 30 分もいないで帰ってしまうような状態でしたが、これからは、みんながいつでも心地よく遊びにこれるような家になりました。最初は、もう年寄りしか住んでいないから、どこか小さいアパートを借りて・・・とも思いましたが、思い切ってリフォームし、私達がいつでも帰ってこれる拠点も失わずにすみ、本当によかったです。 |
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